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連続時間マルコフ連鎖とPMHF式の導出 改訂版 (8) |
PFH の $\sum\lambda$ 式はどの仮定から出るか
前稿では、同じ IF-SM 潜在状態モデルを PFH 側にも持ち込むと、PFH も PMHF と同じ形の 2 次項を持つことを示しました。これに対して、IEC 61508 の本文では(図1064.1) PFH は各サブシステムの $\lambda$ を加える形で提示されており、その加法形がどの状態モデルの縮約であり、どの仮定の下で妥当かは、その箇所では明示されていません。

この文の和訳は以下です。
B.3.1 計算手順
高頻度要求モードまたは連続モードで運転される E/E/PE 安全関連系の故障確率を計算する方法および手順は、低頻度要求モードの計算方法および手順と同一である。ただし、平均要求時故障確率 (PFD_{AVG}) を、1時間当たりの危険側故障確率 (\lambda_{AVG}) に置き換える点だけが異なる。
E/E/PE 安全関連系全体の危険側故障確率$\lambda_{AVG}$は、危険事象に対する保護を提供するすべてのサブシステムについて$\lambda$を計算し、それら個々の値を加え合わせることによって求められる。これは次式で表される。
$$ \lambda_{AVG} = \sum \lambda_{SE} + \sum \lambda_{LS} + \sum \lambda_{FE} $$
ここで、
— $\lambda_{AVG}$は、E/E/PE 安全関連系の1時間当たりの故障確率である。
— $\lambda_{SE}$は、センサまたは入力インタフェース要素の1時間当たりの故障確率である。
— $\lambda_{LS}$は、ロジックシステム要素の1時間当たりの故障確率である。
— $\lambda_{FE}$は、出力インタフェース要素または最終要素の1時間当たりの故障確率である。
したがって、規格を素直に読む限り、PFH は実質的に $\sum\lambda$ で与えられる量として受け取られます。本稿では、その表示式の背後にある仮定を整理します。
前稿の結果を抽象化すると、PFH 側で、危険事象の直前にある潜在状態の時点不稼働確率を $U_\text{LAT}(t)$、そこから危険事象を生じさせる最後の危険故障率を $\lambda_\text{last}$、単独で危険事象を生じさせる SPF 寄与を $\lambda_\text{SPF}$ としたとき、
$$ \mathrm{PFH}(0,H)\approx\lambda_\text{SPF}+\frac{\lambda_\text{last}}{H}\int_0^H U_\text{LAT}(t)\,dt \tag{1064.1} $$
と書けます。
第1の仮定は、各サブシステムの内部時間依存を、あらかじめ 1 個の平均故障率に縮約していることです。すなわち、サブシステム $i$ に対して、危険事象への流入頻度を $w_i(t)$ とすると、その平均値
$$ \lambda_i:=\frac{1}{H}\int_0^H w_i(t)\,dt \tag{1064.2} $$
だけでサブシステムを代表させる、という仮定です。規格で「各サブシステムの $\lambda$ を計算して足し合わせる」と書かれているとき、まずこの縮約が暗黙に入っています。
第2の仮定は、サブシステム内部で潜在状態を経由する 2 次項を省略していることです。すなわち、(1064.1) の第2項
$$ \Delta_\text{2nd}(H):=\frac{\lambda_\text{last}}{H}\int_0^H Q_\text{LAT}(t)\,dt \tag{1064.3} $$
に対して
$$ \Delta_\text{2nd}(H)\ll\lambda_\text{SPF} \tag{1064.4} $$
として、これを無視します。すると
$$ \mathrm{PFH}(0,H)\approx\lambda_\text{SPF} \tag{1064.5} $$
となります。
最後に、互いに独立な SPF 寄与が $m$ 個あり、それぞれの平均危険故障率を $\lambda_i$ とすると
$$ \lambda_\text{AVG}\approx\sum_{i=1}^{m}\lambda_i \tag{1064.6} $$
です。これが規格で見える $\sum\lambda$ 形です。ここでの加算そのものは、通常の独立レアイベント近似の範囲に属します。
このことは、1059 で得た PMHF の DPF 項
$$ \frac{1}{2}\lambda_\text{IF,DPF}\lambda_\text{SM}\bigl((1-K_\text{SM,DPF})T+K_\text{SM,DPF}\tau\bigr) \tag{1064.7} $$
と比較すると分かりやすくなります。前稿の PFH の 2 次項とこの DPF 項は、どちらも
「第1故障率 × 平均露出時間 × 第2故障率」
という同じ 2 次構造を持っています。したがって、規格を素直に読む限り PFH は SPF の和として理解されますが、状態モデルを復元すると PFH 側にも 2 次項は現れ、そこで初めて PMHF の DPF 項と同じ数理構造が見えてきます。



